本データベースは、謡本・能楽専門出版社の檜書店から古典芸能研究センターへ寄贈された版木を公開することを目的としている。 センター所蔵の版木は、大半は近代のものであるが、少数ながら近世のものもある。檜書店は、近世末期に謡本書肆の山本長兵衛から版権 を譲り受けた本屋である。近世の版木は、その山本長兵衛が使っていたものである。一方、近代の版木は、檜書店により新たに作られたもの であり、その多くは明治30年代に作成された。他の謡本書肆が明治半ばから石版刷に移行する中、檜書店は大正4年まで木版刷の謡本を刊行し 続けた。この最後まで使われていた版木もセンター所蔵の版木に含まれている。 版木の内容は、観世流・金剛流の謡本が最も多く、題箋や刊記等の版木も含めると全体の8割以上を占める。謡本は、内・外二百番以外に、 明治期新作能や小謡本などがある。特に新作能の版木は充実しており、なかには、寺社が特別に依頼して作らせた「夜須良為」(明治31年今 宮神社刊 金剛流)、「多賀」(同35年多賀大社刊 観世流・喜多流)が含まれている。謡本以外では、観世流の型付、謡の伝書、解説書な どの能楽書と、ごくわずかながら『選択本願念仏集』の版木がある。『選択本願念仏集』については、檜書店創業の頃にまず刊行したのが仏 書であったため、その名残であろう。なお、版木の全容については、「檜書店旧蔵版木目録(解題・凡例・目録)」(『神戸女子大学古典芸 能研究センター紀要』2号、2009年3月刊)をご参照いただきたい。 データベースでは、デジタル撮影した「正像」と、彫られた字が判読できるよう加工を施した「鏡像」の二種類の画像を掲載して、江戸末 期から大正初期に至るまでの版木の様子がわかるようにしている。